Ingress Primeのここがダメだ
Ingress Prime のダメっぷりはもはや広く知れ渡るところとなったが、この数ヶ月 (この記事は2019年2月に公開された) 、リアルで会った人間の大多数が旧バージョンから完全には移行していない現実を目の当たりにしてさすがに思う所があったので、ちょろっと戯言でも書いてみる。
完全に僕主観の話で恐縮だが、Ingress はもともと、バランスの美しさが魅力の1つと言えるゲームだった。
荒削りだがキビキビと反応するUIを前提として、ディメンジョンが変わっても破綻しない、絶妙に調整されたパラメータ。多少でも腕に覚えがあるゲーマー気質の人なら、量であれ時間であれ、すべての行動の背後に「数値」を感じ、特に 1 vs 1 の時にはそのバランスの良さを実感していたはずだ。
レゾネーターの設置距離、バースターの到達距離毎のダメージヒートマップ、リンクの存在とミティゲーションの概念、1台のクライアントからの通常操作時にのみ仕掛けられたバースターの最短発射間隔制限と先のヒートマップと単一端末からのリモートリチャージ限界速度との関係性。CFの存在。ロードXMとポータルXMの存在と可視化、などなど…
これらはまるで「美しい数式」のようであり、これこそが、僕がかつて Ingress を愛した理由の1つだった。
明確な数値を知る者もいた。ぼんやりと肌感覚で感じていただけの者もいるだろう。前者と後者とでは学習曲線の違いこそあるものの、最終的には似た行動に落ち着いた。また、それでも能力が不足する者は、他人の力を借りることで補うことができた。
制約の一部はちょっとした操作により回避可能だった。そういったあたりもマニア心を微妙にくすぐった。
PvP 要素を持ちながら、陣営間の勢力調整要素がご新規さんと外部支援、それにリカージョンくらいしかないのも Ingress の特徴だが、実は、年単位で見ればライフゲームのように戦況が変わるのも面白いところだ。長年、同じ色になっているところでは、その色の若手が育ちづらい。故に、逆の陣営が徐々に力を付け、圧となる、というのも面白い。そして、そこに対する策すらもある。
プレイスタイルによってはeスポーツ的な側面を見せることもある。例えば、とある個人技を競ったイベントにおいては、オペレーター無しで純粋に相手の動きを読み、ポータル間移動の所用時間を見積もって動き、脳内Intelマップを頼りに最速でリンク&CFを作る、という、全力で頭と体と指を使う必要に迫られたこともある。個人的にはここ3~4年くらいはそういった機会は全く無くなったが、少なくとも当時、Ingress は、数ある位置情報ゲームの中でも他にない存在だったのだ。
さて、現在の Ingress Prime の話をしよう。
今、この場で特に指摘しておきたい Prime の問題点は2つだ。1つは「小さな報酬」の欠如と、もう1つは、僕が先に挙げた「美しい数式」、これが感じられない仕様になってしまっている、という部分だ。
例を挙げよう。格ゲーやFPS/TPSなどのリアルタイム系 PvP 作品では、よく、どのキャラがマイナス補正されたとか、どの武器がプラス補正されたとか、そういった些細なレベルの変更ですらゲームバランスの崩壊を招いたとして、酷評されることも珍しくない。
しかし、驚くべきことに Prime はそういうレベルではなく、本作の根幹を成していた「美しい数式」が大崩壊してしまっているのだ。
バグが多い、との指摘も多い。確かにバグが使用感を大きくスポイルしている部分もある。しかし、その点で言えば、この会社の作品は何であれ、程度の差こそあるもののリリース当初はそんなもんだった気がしなくもない。それどころか、成熟後の旧スキャナがクソみたいに落ちまくった時期だってある。いずれにせよ、単なるバグであればそのうちに解決されるはずだ。
だが、事の本質である「本作の最も大きな魅力のうちの1つを、開発が全く理解していなかった、あるいは敢えて捨てた」というUI・UX問題は致命的だ。
これを「報酬設計」と呼んで良いかは微妙なところだが、本作の「報酬」のうちユーザーが最も多く接する機会があるのは、実は先に挙げた「美しい数式」が背景にある場所、すなわち、1発1発のバースター発射であったり、レゾネーターが壊れる瞬間とか防戦されたポータルの破壊、あるいはリンクを切ったり張ったりする瞬間、そういうところなのだろうと僕は理解している。勝手な見方かもしれないが、要は、一つ一つのアクションの気持ちよさが、それ単体で報酬として機能していたと思うのだ。
平たく言えば、バスターをぶっ放したらスカっと気持ちよくなきゃいけないし、ドボーンとデカいCF作ったらプレイヤーが思わずドヤ顔をしたくならなきゃイケない。そして、その背後にチラチラと例の「美しい数式」が見え隠れしていればグッドだ。
そうした小さな心理的報酬は、現在の Prime では感じづらくなってしまった。さらに、数式の一部に至っては(Prime同士では)感じることが不可能になってしまった。かつて、我々が画面越しに共有したクオリアの一部は、もはや、Prime では感じられなくなっている。
もし、現状の Prime の緩さ加減に運営が満足しているとするならば、恐らくは見誤っている大事なことがもう一つある。それは「美しい数式」が、マニアだけのものではなかった、ということだ。すべてのユーザーが完全に理解していた、とまでは言わない。しかし、ゆるい学習曲線の果てに、多くのプレイヤーが概ね共有していたものだったのではないか、と、ここへ来て改めて感じるのだ。
少し脇道に逸れるが、個人的には、いくつかの仕様は明確に削られた、とも感じている。僕はただのプレイヤーだ。邪推や戯れ言と取ってもらった方がむしろ楽な話にはなるが、背景には色々な事情があるのかもしれない。位置情報ゲームを巡っては様々な事案が発生しており、当局・行政からの要望は少なくない。率直に言って意見を求められた先で「厄介なゲームだ」との話を直接耳にしたことは1度どころではない。適切な自粛なり規制がなければ、いずれ、何らかの問題が俎上に載ろう。(※Ingressはこのような厄介な問題を抱えており、それも衰退を進める要因の1つとなっている。)
まぁ、果たしてそんな事情は無いとしても、ともかく、今後ひり出される成果物に市場性があるのかどうかに関して言えば、少なくとも僕の周りの狭い世界での観測結果からは、あまり良い結果を見通せなくなっているのは確かだ。でも、太字のところくらいは今からでも何とか出来るんじゃないの?とは思ったりもする。ただしそれは、その心理的報酬の出来栄えをかつての名作と比べられることになる、という点で多難と言えるのかもしれない。
もちろん、そのまた先には老害のいない新しい世界が開けているのかもしれないけども。
知らんけどな。
※この記事はあえてSNSへの更新通知を出しませんでした。
※2019/12/3, 12/20 文書ブラッシュアップ