【恐怖指数】「VIX指数」とは一体何なのか
米国株が大きく下がった翌日、よくニュースなどで「VIX(Volatility Index)」という単語を見かけませんか?
別名「恐怖指数」とも呼ばれる「VIX指数」は、その名のとおり「投資家の不安心理を表す指数」と説明されたりもします。
ただ、「恐怖の指数化」と聞いても、それが具体的に何を表しており、どう算出されるのか、までピンと来る方は少ないのではないでしょうか。
というわけで今回は、VIXに興味はあるけれども実態が良く分からない、という方向けに、数式を使わず、できるだけ簡単に「VIXとは何なのか」を解説します。
VIX指数は「S&P500(SPX)の変動率の市場予想」
結論から言ってしまうと、「VIX」とは「SPXの将来変動の市場予想」を指数化したものです。
ここでいう「SPX」とは米国の「S&P500」、つまり、日本でいう日経平均(日経225)のような株価指数です。「VIX指数」は、市場がその30日後までの変動をどう見ているか、を表したものになります。
「VIX」は、その数値が大きいほど将来の変動が大きく、小さいほど変動が小さい、と市場が見込んでいる事を表しています。
また、相場の下落時は上昇、平常時・上昇時は低く推移する傾向があるのも特徴です。
さて、そんな「VIX」ですが、いったい何からどう算出されているのでしょうか。まさか、市場参加者へ「株価の先行きに関するアンケート」でも毎日取っているのでしょうか?
ということで、ここからは「VIXの背後にあるモノ」と「VIXとは何者なのか」についてお話していきましょう。
SPXのオプション価格から算出されるVIX
VIXを理解するには、まず、オプションという金融派生商品について、ざっくりと理解しておく必要があります。
オプションとは何ぞや?
「オプション取引」とは、「未来の決められた日(オプションのタイプによってはそれまでの任意の日)に、ある金融商品をいくらで買う権利、または、売る権利」を売買する行為を指します。
正直、これは直感的には理解しづらい概念ですので、ここでは単純に「株の保険」と捉えておくと理解しやすくなると思います。
未来のある日に、株価がいくら以下に値下がりしていたら、権利行使価格とその時点での株価との差額を受け取りたい、とか、逆に、いくら以上まで値上がりしたら、その分の差額を払います、といった契約。この契約に価格を付けて市場で取引しているわけです。
雑に言えば「株の値下がり保険」「株の値上がり保険」といった感じでしょうか。
そういう保険の売り手と買い手とが保険契約を売買している、それがオプション市場だと思っていただければ、そう大きく外してはいません。
オプションのIV(インプライド・ボラティリティ)とは
さて、ここであなたは考えます。今、ここに1株1500円の銘柄があったとして、これを1カ月後に1500円で売れる権利、その適正な保険料はいくらなのか、と。
この問題を解決してくれるツールが、金融工学の産物であるブラック・ショールズ方程式などのプライシングモデルです。
このプライシングモデルに、非危険利子率・配当等、残存日数、権利行使価格、そして今回触れるIV(インプライド・ボラティリティ)などを入れてやると、先の例えでいう保険料、つまり「プレミアム」を加味したオプション価格を算出できます。市場参加者はそれを参照して、「保険契約」とも言えるオプションの価格形成をしているのです。
で、ここからが本題。
このプライシングモデルの中でも、とりわけ特徴的であり、かつ、論理と現実世界との橋渡し役となってくれるのが「IV(Implied Volatility)」です。
この「IV(インプライド・ボラティリティ)」は、日本語では「暗黙の変動率」と翻訳されることもある概念。そう、オプションのプライシングモデルには「未来の株価変動の見込み」を入れる変数が用意されているのです。
「IV」は、市場参加者(それが人間であるとは限らない)が決めます。そのため「オプション取引は、実質的にIVを売買している」と揶揄されることもあるほどです。(これについては冗談めいたものと捉えておいてください。実際にはギリシャ指標の重要度が高い取引です。)
オプションの世界では、「相場が荒れる → IVが高い → プレミアム(保険料)が高い」「相場が静か → IVが低い → プレミアム(保険料)が安い」、そういう値動きをする。ここではその程度の認識があれば十分です。
VIXはS&P500オプションのIVから算出される
もう、ほとんど答えに辿り着いている気もしますが、そろそろ話しをまとめましょう。
市場のオプション価格からは「IV」、つまり、「株価の保険契約(みたいなもの)」が前提としている、「30日後までのSPXの変動率」を逆算できます。
例えば、先日のように米国市場でS&P500(SPX)が大きく下げると、SPXオプションのプレミアム(保険料)が跳ね上がります。保険料をアップしないと、保険の引き受け手が現れないからです。
暴落時のオプション価格から「IV」を逆算すれば、投資家達が、今後の株価の変動率をかなり高く見積もっている、つまり、荒れた相場が今後も続くと考えている事が分かるわけです。
実際のオプション市場では、例えば1つの SPX という指標に対して、多数の権利行使価格が設定されています。
そして、そのそれぞれの権利行使価格についてIVを逆算し、ある数式で束ねて指標化します。
こうして算出される数値が「VIX(Volatility Index)」です。
だから、VIXとは「株の保険料の指数」と言い換える事ができるし、「保険料が高い=投資家が株価の先行きに不安を持っている」とも言えますから、世間では「恐怖指数」なんて呼ばれるわけです。
奥深いボラティリティの世界
ボラティリティの世界は奥深く、デルタ・ガンマ・ベガ・セータといった基本的なギリシャ指標、そして高次ギリシャ指標、コール・プットのIVの歪みを表すスキュー(Skew)、スマイルカーブ、ボラティリティ・クラスタリングなど、他にも重要な要素・概念がてんこ盛りです。
また、オプション価格からのIV算出は解析的には解けず、反復法を用いて求根する必要があるなど、数学的な面白さも湛えています。
個人的には「VIX」を「恐怖指数」と呼ぶのは、VIX をある1面からしか捉えていない感じがして嫌いなのですが、日本語圏のニュースサイトでは恐怖指数というキーワードの方が良く使われるので、馴染みやすさから阿ってみました。
なお、VIXは米国のCboeが算出する指数ですが、我が国にも「日経平均VI」という似た指数が存在します。こちらは日経225を原資産とする日経225オプションから算出されている指数です。
とはいえ、金融派生商品の幅や流動性という観点では、我が国のそれは米国に到底叶うレベルではありません。
米国は紛れもないオプション先進国であり、指数のみならず、債券、通貨、個別株、ETN・ETFに至るまで、幅広い金融資産を原資産とするオプション取引が盛んな国なのです。