【レビュー】僕がα7S IIIを買って良かった・悪かったと思う事
2020年10月発売のソニーのミラーレス一眼「α7S III」について、僕が買って良かった・悪かったと思う点をまとめておきます。
もともと大きなカメラを持ち歩きたくない、という理由で、APS-C サイズ縛りで生きてきた僕ですが、(大して上がってないんですが、それでもまぁ)自分の腕が上がるにつれ、特に動画撮影時に道具としての限界を感じるようになり、結局はフルサイズが必要、という結論に到達し、α7S III を購入しました。
今回はそういう視点からの感想になります。
α7S IIIの良かった点
■ ローリングシャッター現象の少なさ
α7S III で僕が最も感心したのが、「ローリングシャッター現象」の少なさです。
ローリングシャッター現象とは、高速移動する被写体がコンニャクのように歪む現象。今まで色んなカメラを見たり触ってきましたが、これだけローリングシャッター現象が起こりづらい DSLR はちょっと記憶にありません。
これは、視聴者に違和感を与えない、というだけでなく、撮影した素材をポストプロダクションで扱いやすい、という利点にもつながっており、撮れ高に大きく影響する点と言えるでしょう。
■ 手持ちでもそこそこ使える「手振れ補正」
手ぶれ補正だけ見ればもっと優秀なカメラはありますが、僕がソニー党であること、また、瞳AFや高感度、高フレームレート、純正広角レンズのラインナップといった総合力があってこそ生きる手ぶれ補正、という部分で、ジンバルがなくてもごまかせるシーンが多い機種だと感じます。
ちゃんと撮るなら依然としてジンバルは必要ですが、ライトユースで「今日は1日手持ちでいく」と決めた日でも、広角レンズ+「アクティブ手ぶれ補正」があれば多くのシーンをカバーできる、というのは、軽量化にかなり貢献してくれます。
また、苦手なシーンはあるものの、Catalyst Browse を使った手振れ補正も、ここぞ、という時には使える印象です。
■ 4:2:2 10bit
ここ最近、僕は全ての動画を S-Log3 / HLG で撮っています。が、特に S-Log の階調表現は 8bit 収録ではかなり厳しく、ポストプロダクションでのノイズ除去などで、かなりPCのパワーが必要となってしまいます。
その点で言えば、α7S III + S-Log3 の組み合わせも、実は「銀の弾丸」ではなく、8bit 収録時代のノウハウが生かせる部分は少なくありません。しかし、ポストプロダクションで頭を抱えてしまうようなシーンはかなり減った印象です。
■ 暗所性能の高さ
α7S III の暗所性能の高さは特筆すべきものです。
α7S II との比較だとそこまで向上していなさそうですが、この高感度だから暗所でもアクティブ手ぶれ補正が使い物になる、とか、暗所でも瞳AFが合う、とかとか、実用上、この機種の仕様が、かなり絶妙なバランスを意識して決められたものであることをそこここで感じさせられます。
■ AF性能の高さ
このカメラの AF 性能は相当なものです。特に純正レンズとの組み合わせでの AF 性能の高さは特筆すべきと思います。これがあるからソニーから離れられないんだよなぁ。
■ 新メニュー
今までのソニー機のメニューが単純にダメだっただけですが、やっとまともなメニューになった、ということで、とりあえずは歓迎しています。
■ クロップ無しでの動画撮影
動画撮影モード毎のクロップ仕様を意識する機会がほとんどなくなったというのもありがたい点です。
これまでの機種は、解像度やフレームレートによって画角が狭くなる(クロップされる)ものばかりでしたが、α7S III では 120p やアクティブ手ぶれ補正といった、いくつかの仕方がない、と思われるモードでのみクロップされる仕様に改善されました。
より広い画角は、手ぶれ補正の面でも有利ですし、表現の幅や撮影スペースの制約など、さまざまな所で武器となるのです。
■ 色味が良い
僕はソニー党でありながら、ソニーのカメラの色味がなかなか好きになれませんでした。
静止画はともかく、特に暗所での動画の色味は本当に好きになれなくってですね、ちょっとマゼンタ寄りになるというか、なんだか青色の抜けも悪くて、ブルーベースの人肌があまり綺麗に見えない印象だったんですね。
が、α7S III ではこの辺りがそこそこ改善。当初は「下手にカラグレしない方がいいんじゃないか」と思えたくらいです。
デジタルカメラでは「感度は色味」という部分もありますのでその恩恵なのか、それとも画作りの方針が変わったのか、とりあえず、後工程がずいぶんと楽になった、という点で助かっている部分ではあります。
α7S IIIの悪かった点
■ 4K撮影時、APS-C(Super35mm) モードが使えない。
α7S III は高感度と引き換えに、12Mピクセルという低解像度の撮像素子を採用しています。このため、4K撮影時、APS-C モードが使えないという制約があるのです。
あまり知られていない使い方かもですが、APS-C モードを使うと、例えば、16-35mm の広角ズームレンズを1本だけ持っていき、APS-C モードに切り替えて、その1.5倍の画角である 24-53mm のレンズの代わりとして使う、ということができます。この機種ではこの技が4K撮影時にできないのです。
解像度を犠牲にして 2K(Full HD)まで落とせば APS-C モードを使えるようになりますが、たとえ AI を活用したとしてもポストプロダクションでのアップコンバートで使い物になるかは賭けになりますので、画質を大きく妥協するか、レンズをもう1本持っていく、という判断が必要になってきます。
■ アクティブ手ぶれ補正のクセ
使い慣れてくると気になってくるのが、アクティブ手ぶれ補正の「クセ」です。
特に、水平出し時や斜めパン時、船を漕ぐように左右に揺れる現象が我慢ならない、という方はいるんじゃないでしょうか。
これについては、Catalyst Browse を使ったジャイロスタビによって解決できるのですが、イルミネーションなどではフリッカー現象との兼ね合いで使えなかったりと、これも万能ではありません。また、画質も落ちますので、悩ましい話となってきます。
■ Catalyst Browse が H.265 に非対応
僕はソフト屋なので、ソフト周りに興味が向きがちなのですが、ソニー純正ソフトの「Catalyst Browse」が H.264 4:2:2 10bit での書き出しに非対応、また、H.265(XAVC HS)はそもそも読み込めない、という点も指摘しておきたい点です。
これについては2020年秋にアップデート予定と聞いていますが、2020年11月27日時点、まだ、アップデートは来ていない状態です。
■ タイムコード周りが貧弱
α7 シリーズは割と昔からタイムコードに対応しているのですが、α7S III クラスの撮影能力があると欲が出てきて、外部タイムコードやタイムコードの同期機能が欲しくなってきます。
SONY のカメラ同士なら、純正赤外線リモコンを使って同時にタイムコードをリセットする、という方法も使えそうですが、残念ながらそのリモコン(RMT-VP1K)が生産中止で、とんでもないプレ値が付いている有様。
外部タイムコードについては、昔ながらの LTC を使う方法もあるのでそちらを使うしかないかなー、という印象です。
トータルでは大満足です
ということで、モニョる部分もないわけではありませんが、総合的には、何気ない日常を映画のワンシーンに変えてるくれる、素晴らしいカメラです。
ここまでくると、4K動画で出来ることはもうほとんど無いんじゃないか、と思える、そんな完成度の高いカメラということで、自信を持ってオススメできる製品と思います。