【α7S III】Catalyst Browseの手振れ補正は使いものになる?撮影条件と詳細

 2020年12月7日

情報としてあまり表に出ていないようなので、ソニーのミラーレス一眼「α7S III」の動画をソニーのメディア管理ツール「Catalyst Browse」でジャイロ手ぶれ補正する際の注意点や撮影条件についてまとめておきます。

そう、α7S III では全ての動画に後からソフトウェアで手ぶれ補正を掛けられるわけではないんです。

今回は、Catalyst Browse バージョン 2019.2.2 を前提に書いていきます。

Catalyst Browseは「α7S III」に未対応

まず大前提として、Catalyst Browse バージョン 2019.2.2 は α7S III を正式サポートしていません。

おそらくは、今後のアップデートにより α7S III に対応するものと思われますが、現状では、特定条件で撮影した動画を Catalyst Browse で開こうとしても、再生すらできないケースがある状況です。

※ その後、α7S III に正式対応したバージョン「2020.1」がリリースされました。

ソニー、Catalyst Browseの最新版をリリース。XAVC HS(HEVC)の手振れ補正に対応 | TeraDas

さまざまな改善点があり、別途、ブログ、または YouTube チャンネルにてレビュー予定です。

ということで、次の段では Catalyst Browse で開ける撮影モードについてまとめておきます。

Catalyst側が対応している動画形式

Catalyst Browse バージョン 2019.2.2では、α7S III で撮影した動画のうち、以下の条件を満たす動画にのみ、手振れ補正を掛けられます。

  • XAVC HS(H.265)以外で撮影した動画
  • 60p 以下の撮影フレームレート
  • 手振れ補正メタデータが記録されている

これらの全部、または一部については、(確証はありませんが)今後のアップデートで改善されるのではないかと予想しています。

また、Catalyst の手振れ補正自体は「4:2:2 10bit」対応していますが、手ぶれ補正後、少なくとも XAVC S で出力した場合は「4:2:0 8bit」へ変換されてしまう、という制約もあります。

「α7S III」側の撮影設定

まとめると、Catalyst Browse による手ぶれ補正を掛けたいなら、α7S III 上での撮影モードは以下のいずれかを使う必要があります。

  • XAVC S 4K
  • XAVC S HD
  • XAVC S-I

これに加え、以下の設定も必要です。

  • カメラ側の手振れ補正機能を本体・レンズ内ともに OFF
  • フレームレート 60p 以下で撮影

なお、60p 以下制約については、カメラ側・Catalyst Browse 側、いずれの問題なのかは不明です。

個人的には α7S III 自体、120p ではアクティブ手振れ補正が効かない仕様となっていること、また、Catalyst Browse 自体が非対応のせいかは不明も、少なくとも現バージョンでは 120p の動画ファイルには手振れ補正メタデータが無い、とCatalyst 上では表示されるため、カメラ側が 120p 撮影時に手振れ補正メタデータを入れていなさそうだ、とは感じています。

※ Catalyst Browse は、カメラが動画ファイル内に書いたジャイロデータ(手振れ補正メタデータ)を参考に手振れ補正処理を行っています。

その場合、Catalyst Browse だけがアップデートされてもダメで、カメラ側がサポートしてくれないと無理、という話にはなりそうです。

暗所ではシャッタースピードに注意

Catalyst Browse で手振れ補正をかけるための α7S III の撮影設定は以上ですが、加えて、暗所や暗いレンズではシャッタースピードも意識しないと、GoPro のような光ブレが大量発生してしまうので注意が必要です。

僕は 60fps 撮影が主ですので、それ以外は参考程度に見て欲しいのですが、最低でも以下くらいのシャッタースピードは稼がないと、仕上がりがかなり悪くなると思います。

  • 24 fps:1/80 ~ 1/100 秒以下
  • 30 fps:1/125 秒以下
  • 60 fps:1/160 ~ 1/200 秒以下

簡単にまとめると、シャッタースピードの分母が最低でもフレームレートの3~4倍ぐらいは欲しい、という感覚です。

暗所×60Hz地域での撮影

さて、ここで問題になってくるのが、60Hz 地域における暗所でのフリッカーフリー対策と手ぶれ補正の両立です。

というのも、カメラの世界ではシャッタースピードは段階的選択が慣例となっており、α7S III もそれに倣い、以下のようなシャッタースピードの区切りになっているからです。

  • …、 1/25、1/30、1/40、1/50、1/60、1/80、1/100、1/125、1/160、1/200、1/250、1/320、1/400、…

50Hz 地域であれば分母が50の倍数を選択すれば良いだけですが、60Hz 地域の場合、たとえF値が2以下の明るいレンズを使ったとしても、光ブレを抑えつつ、暗所で現実的に稼げるシャッタースピードの範囲には、分母が60の倍数のものが無いため、フリッカーが発生してしまうのです。

最近は、LED 照明の普及などであまり気にならなくなった感もありますが、ただでさえ重たい Catalyst Browse による手ぶれ補正処理に、追加で重い処理をかけるのは、可能な限り避けたいものです。

Catalyst Browseの手ぶれ補正処理は実時間の15~30倍

ちょうど良いので、ここで Catalyst Browse による手ぶれ補正処理の重さについて触ておきます。

マシンスペックやクリップによってかなり変わりますが、例として、AMD の Zen2 世代の8コア機に RTX2070 Super が挿さったマシンでも、1分30秒の 4K60p 動画を 90.3% クロップする手振れ補正の処理時間に45分、つまり実時間の30倍も掛かりました。

30p で半分の時間になったとしても実時間の15倍。これはかなり重い処理と言って差し支えないでしょう。

(※バージョン「2020.1」では、GPU支援が受けられる動画形式であれば、かなり高速化されたように思います。別途計測が必要ですが。)

しかも、Catalyst Browse の UI の出来はお世辞にも良いとは言えず、1件ごとにクロップ率を設定 → 手振れ補正処理を作業キューに貯めることはできるものの、標準機能だけ一括でまとめてバッチ処理することはできません。

このため、Catalyst Browse の手ぶれ補正処理を日常的に使うか、と言われれば、ここぞという時には使うとしても、ほとんどの方が全クリップに手振れ補正処理をかける、ということは無いだろうと感じます。

Catalystによる手ぶれ補正の品質は明るさ次第

Catalyst の手振れ補正の評価は、条件によってまちまちです。ただ、万能でないだけで、撮影条件の追い込み、シーン、ポストプロダクションでの処理次第では、大いに活用のしどころがあることに間違いはありません。

この辺は書き方が難しいところですが、まず、「手振れ補正の仕上がり」と「画質」は別ものです。十分なシャッタースピードが稼げる光量さえあれば、概ね Catalyst の方がアクティブ手振れ補正より良い結果が得られます。ただ、シャッタースピードが稼げないシーンでは画質の劣化が激しく、結果、多少、手振れ補正が悪くても、画質の理由からアクティブ手振れ補正を選ぶのが得策、との判断になります。

Catalyst には Catalyst のクセがあるため、いつでも必ず完璧に仕上がる、という保証がないのも辛いところ。明るいシーンなら成功率は高くはなるものの、それでも90%前後のクロップ率ではカクつくシーンが多少は出てくるため、他の手法と併用したくなる場合はあります。

また、Catalyst 向けの撮影では本体側のアクティブ手振れ補正を切るため、そのシーンが撮れ高になるかが賭けになってしまう、という問題があり、そこが許容できるかどうかも判断の分かれ目となるでしょう。

ということで、撮れ高、ポスプロで使うマシンパワー、そして時間がある人向けの贅沢品、という部分は否定できません。

技術的には、未来の手ブレが読めない状態でセンサーを物理的に動かすアクティブ手ぶれ補正に比べ、時間軸的に全体像を見渡して処理できる Catalyst の方が優位性があるはずですが、なかなか一筋縄では行かないようです。

一方で、この部分については間違いだったらごめんなさいですが、アクティブ手ぶれ補正の方が暗所での AF が強そうな気がしてまして。

これは、AF 処理が手振れ補正の前なのか後なのか、という内部仕様が関わっているんでしょうか。詳しいことは分かりませんし、そもそも気のせいのような気もしなくはありませんが、とにかく、Catalyst は暗所に向いていないのではないか、と思う理由の1つにはなっています。

現状、Catalyst による手振れ補正を使いこなすには、相性を踏まえたうえでカメラの撮影条件を整えるスキル、そして、Catalyst 側を触るにしてもソニーの動画形式に関する知識が多少は必要な状況です。

将来のアップデートで裾野が広がって欲しいところではありますが、ただ、そのクオリティは高く、現状でもチャレンジする価値のある分野なのではないか、とは感じるところです。

以上、α7S III / α7C をお持ちの方はもちろん、お持ちでない方にも参考になれば幸いです。

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