「APS-Cモード」ONとOFF。被写体を同じ大きさで写すならどちらがボケ量が多い?【被写界深度】
SONY のフルサイズミラーレス一眼に搭載されている「APS-C モード」。
ソニーEマウントの「1マウント」思想、その恩恵に与れる「APS-C モード」では、「APS-C 用レンズをフルサイズ機で使える」という利便性のみならず、「フルサイズ用レンズを敢えて APS-C モードで使う」といった柔軟な利用も可能です。
基本的に「APS-C モード」は、"フルサイズで撮影して、後からクロップするのと同じ" です。
しかし、「APC-S モード」には後工程での面倒なクロップを避ける、といった生産性の目的だけでなく、それ以上の意味・意義を持って使われることもあります。
今回は、そういった視点から「APS-C モード」のボケ量についてお話します。
「APS-Cモード」ONとOFFではどちらがボケ量が大きい?
ソニー機の「APS-C モード」で良く聞かれる疑問の1つに、
- 同一レンズで、同じ被写体の見かけ上の大きさを揃えた場合、フルサイズと APS-C モードなら、どちらがボケるのか?
という質問があります。
往年のカメラファンなら一瞬で答えられそうなこの問題ですが、敢えて実験的アプローチで答えを出していきましょう。
「被写体の見かけ上の大きさ」は何で決まるか?
「被写体の見かけ上の大きさ」は、以下3つの要素で決まる、という原則があります。
- 被写体までの距離
- 焦点距離
- 撮像素子の(有効)サイズ
このうちの「1」「2」は言い換えれば、被写体の見かけ上のサイズが同じでも、近くから広角で撮ったり、遠くから望遠で撮った場合がありうる、ということ。
そして「APS-Cモード」は「3」に当たり、撮像素子の有効サイズがフルサイズ比で小さく、つまり、画角が狭くなるわけです。例えば、「1」「2」が同じで被写体の見かけ上の大きさを同じにしたいなら、その分、引きで撮る必要が出てきます。
ということで今回は、焦点距離が可変のレンズ(ズームレンズ)で、次の2パターンでのボケ量(被写界深度)を比較してみました。
- パターン1「被写体までの距離は同じ+焦点距離のみ変える」
- パターン2「被写体までの距離を変える+焦点距離は変えない」
(※ 以降の写真はすべて「α7 IV」+「SEL2470GM2」の F2.8 で撮影 )
パターン1「被写体までの距離は同じ+焦点距離のみ変える」
最初に試すのは「APS-C モード」ON / OFF で、「被写体までの距離は同じ」+「焦点距離を変える」パターンです。
こちらが「APS-C モード」OFF。つまりフルサイズの 焦点距離 35mm で撮ったもの。
こちらが「APS-C モード」ON。中央の箱が同じサイズになるよう、ズームレンズの焦点距離を広角側24mmにして撮影。カメラと被写体の距離はほぼ一定です。(※手持ちのためフレーミングに若干の差があります)
結果は等倍表示するまでもなく「フルサイズ+焦点距離35mmの方がボケ量が大きい」、という結果に。
※ 分かりづらい方は、左側の黒い箱の文字に注目。
また、ここでは「同一レンズで焦点距離を変えても、被写体までの距離が変わらなければ圧縮効果は変わらない」ことも見て取れます。
パターン2「被写体までの距離を変える+焦点距離は変えない」
次に試すのは、「被写体までの距離を変える」+「焦点距離は変えない」パターンです。
こちらが「APS-Cモード」OFF。つまりフルサイズで焦点距離は 49mm です。
こちらが「APS-Cモード」ON。焦点距離は 49mm のまま、中央の箱が同じサイズになるようカメラを移動し、より遠くから撮影。ズームレンズの焦点距離は変えていません。
こちらも等倍表示するまでもなく「フルサイズの方がボケ量が大きい」、という結果に。
また、被写体までの距離が遠い分「APS-C モード」の方が圧縮効果が強いことも見て取れます。
たまに勘違いされる方がみえますが、圧縮効果とは望遠レンズそのものによる効果というよりも、被写体までの距離によって生まれる効果、と言ったほうが正確なのです。
「APS-Cモード」の使い道
ということで、「APS-Cモード」の効果をまとめるとこんな感じ。
- (見かけ上の明るさはそのままに)撮影倍率を上げ、被写体を大きく写す効果
- フルサイズではボケすぎる場合、ボケ量を減らす効果(被写界深度が深い)
- 被写体までの距離を伸ばすことで圧縮効果を強める効果
- (ズームレンズの広角側に余裕がある場合は)F値を絞らずに被写界深度を深くできる効果
本質的には「APS-Cモード」はアナログ周り・光学系の余裕に頼る機能、という位置づけにはなりますので過度な期待は禁物です。実際、出てくる画の空気感はフルサイズの方が上ですから、「可能な限り光学系・アナログ周りを調整して1枚ずつ丁寧にフルサイズで撮る」という原則を覆すものではありません。
ただ、最近のカメラ・レンズにはかなり性能面で余裕が出てきていること、また、これは主観にはなりますが、近ごろはスマホでの撮影・視聴が一般化したせいか、特に動画界隈ではブラーやボケが視聴者に「見づらさ」を感じさせるケースは少なくない気がしており、構図と併せて被写界深度やボケ量の適切な制御の重要性が増してきているようには思うところです。
フルサイズ用レンズとの組み合わせではクロップと同等といえる「APS-Cモード」ですが、被写体までの距離・絞り・焦点距離とは別に、画作りや表現の幅を広げるツールとしても使える、ということは覚えておいて損はありません。
なお、焦点距離やセンサーサイズ・F値について詳しく知りたい方は、こちらのサイトさんの記事が良くまとまっていますので、参考にしてみてください。