2024年8月9日

バックアップの甘さは、事業継続に対する覚悟の甘さだ

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ニンともカンともなニュースが世間を賑わす中、何というか、問題のレンタルサーバ屋はともかく、ユーザー側の反応にも思う所があり、エントリを書くことにしました。

(私の経験が偏っているせいか)正直、障害で業務が止まるような重要サービスのバックアップを取っていない。なんて、ちょっと並の神経じゃないよね。という気もしており、ただのアクセス稼ぎ的手法に釣られているだけなのかもしれませんが、ともかく、思った事を書くことにします。

※ 2012/6/24 検索キーワード追加

いやはやそれにしても前代未聞の障害を起こした会社さんの行く末は大変です。擁護のしようもありません。

そして、ユーザさんの今回の障害に対する怒りと、実際にかかってしまった労力に関しては同情とお見舞いを申し上げる次第なわけです。が、それとは別に率直に申し上げたい事実があります。

それは、「バックアップ・復旧計画の甘さとは、事業継続に対する覚悟の甘さである。」という事です。

通信・コンピュータに関わる以上、この「覚悟」の甘さがあれば、それは必ず悪い結果として跳ね返ってくる可能性がある。本質的にそういうモノだ。という事です。

 

サーバーは落ちます。ハードは壊れます。ネットワークは落ちます。もっと言ってしまえば、技術面のキーマンが会社を辞めてしまったり、事故死する事だってあるかもしれません。

さらに、ここは資本主義の国ですから(親会社も含め)レンタルサーバ屋の財務や与信、当該事業に対する覚悟やスタンスも調べず適当に選定すれば、ある日突然、一方的に不利な条件でサービス停止されたり、最悪倒産、なんて事も無いとは言い切れません。

会社の事業を載せるサービスの選定、というものは、技術的要因だけでなく、健全な経営がなされている会社なのかどうか、まで含め、総合的に判断する必要のある非常に重いものです。

 

そして、そういった諸所のリスクは低減はできてもゼロにはできません。

その事実を直視した上で、それでも何があってもサービスを動かしたい、と思うならば、ユーザ側にも覚悟と施策が必要です。

その覚悟は精神論的な「気合」ではなく、組織としての覚悟。であり、組織・体制・人的資産・リソース配分…等などの具体策として形にする必要がある、金のかかるモノ、なのです。

 

本気で安定運用を望む会社さんであれば、地理的に異なる場所にバックアップサイトを建て、メインサイトとバックアップサイト間の回線にもバックアップを用意、さらに各サーバのバックアップを何世代も作成し、そのバックアップもまた地理的に異なる場所へ運搬し世代管理。さらに有事を想定し、いくつものシナリオを想定した復旧計画を策定。ハードベンダとの間では有事の際の部品交換時間の確約まで付いた(高価な)保証契約を結び、定時上がりの運用専門スタッフを3交代かつ、欠員に備え十分な人数を常駐させ、さらに技術的に有能なスタッフを束にして集めておき、特別な権限を与え、有事の際に招集できるよう体制面でも備える…。

そして、これだけの体制を敷いている会社さんでも、情報系の有能なトップは、有事の事業継続に対する脅威から完全には解放されていない、と意識できるものです。

 

電磁気的記録の本質は、ある領域に電子が閉じ込め続けられている事、なり、電子の回転が持続する事(※つまり磁化)なり、を信じる事です。

それは、「消えやすく移ろいやすい」モノを信じる事、でもあります。

※ 磁化に関しては機構が完璧でありさえすればかなり信頼出来る。と思ってはいますが。基本原理と実装とはまた別の話。という面もあります。

※ もちろん、この話がイコール工業製品としての信頼性の低さというわけではありません。

そういう「不確かなモノ」を「確かなモノ」に変える意思と方策の積み重ね、が、通信・コンピュータの本質であり、また、その上に、これまた怪しい「人の運用」を積み上げ、それでも最終的には堅牢なリアルを構築する。という運用の全貌を俯瞰した時、先に挙げた「本気で安定運用を望む会社さん」のやり方というのは、有事をよく想定し、事業継続に対する十分な「覚悟」があるやり方である。というわけです。

 

有事対応の本質は「抱えているシステムのサイズと、それに対しどのくらいの人の城を築けているか。のバランス」であります。

噛み砕いて言えば、イザという時、貴社のためにどのくらいの質の人間がどれだけ動いてくれる契約なり体制を築いてきたのか、という、その会社の「覚悟」が有事対応の成否を決める。という事です。

これは、当然、金のかかる話でもあります。

 

自社でハンドリングできない技術に業務を依存することはよくある事ですが、月額数千円~数万円程度の、言っちゃ悪いですが、高校生の小遣い感覚(※小金持ちの家なら月5万とかはザラにありますよ)の金額で買ってきた技術なりサービスが、イザという時、あなたの事業のためだけにドコまで動いてくれるのか、なんてのは想像に難くないわけです。

だからと言って、今回のような一律での初期化とか不完全なサルベージ対応ってのも酷い話ではあるんですが、ただ、このクラスのサービスであれば有事の個別対応はほとんど期待できず、バックアップシステムからの一括復元とか、とにかく、そういう画一・均質的な対応が基本であり、最悪、今回のようなケースも想定するべきであり、その時、あなたの事業にはどれだけの覚悟がありましたか。という事が問われる訳です。

 

正直、全ユーザがバックアップを毎日取得しても耐えられるだけの回線容量を確保していたのかどうか(裁判でこの点を指摘すると面白い結果を生んだりしてね)など怪しい部分はありますし、なんというか、「マネージド」なんて名を冠したサービスであれば、そりゃプロフェッショナルな管理を期待して当然。という部分も確かにあります。

そして、この手のサービスを敢えて選択するユーザ側には、十分な要員なり技術なり予算がない事も容易に推測できるので、こういう真実を申し上げる事は、若干心苦しくもあります。が、しかし、真実は真実です。

 

ソーシャル界隈で声の大きい、こう言っちゃなんですが、いつ消えるのかも分からないような WEB 系の若い会社さんだと、金の掛かりにくい方法でこの「人の城」を巧みに作っていたり、あるいは北斗の拳の「ジャコウ提督」みたいなのが「もっと光を!」とか言いながら、その下で可哀想な人らが人力で何かを回していたり、とか、酷いと提督自ら回していたりとかとか、色々あるんですが。

とにかく、先の「本気で安定運用を望む会社さん」の城と、自前でなんとか回してる WEB 系の若い会社さんの城、そして、自社・部門では技術のハンドリングができず高校生の小遣いで買ってきた城、とでは、そりゃ組織としての覚悟が違いすぎるわけで、結果に差が出るのは当然です。

残酷ですが、そういう覚悟同士が自由競争の原理でぶつかり合ってるのがこの世なわけで、(平時のコスト競争力だけでなく)有事への備えも実力のうちであり、そういう事情に対する顧客のお目こぼしなんてものは基本的にないわけです。

備えの無い者が有事の際にいくらがなり立てても、周りに「自分はキリギリスだった」と盛大に触れ回っているだけであり、足元を見られるのが関の山です。

リンゴの収穫ばかりに気を取られ、堆肥や水やり、用水路の整備などが疎かになっていては、良いリンゴはできません。

 

WEB は思った以上に会社の内情を反映しています。

それは、トップが移り気で現場が安心して業務に携われていなさそうだ、という感触であったり、現場の余裕の無さが出ている、という雰囲気であったり、有事対応の柔軟性であったり、障害復旧の速さであったり、様々です。

もちろん、経済性とか市場性というものがありますので、求められるコストと信頼性とのバランスは個々に違うでしょう。場合によってはレンタルサーバ屋の障害に対してはノーガードで行く、というプランだってあるのかもしれません。(未来あるサービスであれば私には想像も付かない事ですが。)

そして、まぁ、全く根拠のない勘を言わせてもらうならば、今回の件で本気で困るレベルの方って、割りとここのサービスがなくなると困る方なんじゃないか、という予感もあったりなかったり。というか、順序としては他を考えられない方だから困ってる。というか。DBのデータの動かし方すら怪しい人だからデータが消えて困ってる。というか。そう考えると、利益重視で移り気な会社さんが親会社である事も関係するんですが、叩きまくって業界から選択肢が減ったりすると、その人はもっと困ることになるんじゃないのかなぁ。等と妄想したりしなかったり。

 

雑談めいた話に逸れてしまいましたが、とにかく、今は残そうとしなかったモノは残らない。そういう世の中です。

持続させたい、残したい、という強い意思は、具体的に実行しなければ現実のものにする事はできません。

 

非常に低い確率で起こる激甚な事象(ここではリスク)をどう合理的に扱うのかについて、人類は古く18世紀の頃から数学的見地を積み重ねており道具は揃っているはずなのですが、21世紀に入り金融危機(金融工学)、フクシマ(原子力)と、この手のリスクを内在する技術を人間が運用しきれない事象が立て続けに起こっています。

リスクから人の目を背けさせる背景には、心理的要因や、競争の激化を背景にした経済的制約など、様々な原因・遠因が考えられるのですが、そういった個々の事情とは関係なく、リスクは必ずある確率で顕在化します。

いつもより少しだけ良い日常を得るために、あるいは、市場要求なり経済性がギリギリの商売であるがために恒常的に大きな賭けが必要とされる層には同情を禁じえませんが、この件に関しては金は無くとも工夫でなんとかなる事なんだ。という事は申し上げておきたいのです。

 

あなたがもし長生きしたいなら、見たくないモノほど直視する事をおすすめします。

それは、恐らく、あなたが本能的に重要かつ面倒なものを察知しているから見ないフリをしているのであり、そして、目を閉じたまま歩けるほど、この世はあなたに都合よくは出来ていないからです。

 

ニュートンはリンゴが木から落ちるのを見て万有引力を発見しましたが、そのような天才性が無くとも、サーバが落ちるのを見て何かに気づく事は決して難しい事ではありません。

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